課題
- キメ細かな収支管理システムを構築し、高収益構造を実現する
- 海外の会計要件及び税制に対応させた総合会計システムを実現する
- 稼働中の運航・整備・貨物の3大基幹システムと自動連携させ、自社システム全体の統合化を図る
導入製品・ソリューション
SAP ERP 6.0、SAP BI 7.0、ESS(従業員セルフ精算)、FSCM(借入金管理)、EP(ポータル)、PI(導入時XI)
プロジェクトの背景
日本郵船及び国内海運会社と国内航空会社の出資により、国際貨物専門航空会社として1978年に設立された日本貨物航空株式会社(略称NCA)では、2005年の経営形態の変更により2006年に、国内航空会社のシステムの利用から「ITの自立化」を目指し、独自のシステム構築を進めることとなった。
コンピュータセンターの立ち上げから始まり、業務基幹システム(運航系、整備系、貨物系)の構築や国内外の通信ネットワークの見直し、更には国内外統一のグループウェア導入など全てを2年間で執り進めた。事業経営から現場実務までを支えるシステム群をシームレスに統合化した全体像を描いていく中で、最後に残された課題が、会計システムの刷新であった。
NCAでは、「収支構造の抜本的改革、グローバル事業の強化」を大きな経営課題として掲げていた。しかし、当時の会計システムでは、1ヶ月ごとに財務会計を締めてから原価計算を行っており、路線収支などの高度な経営資料の作成の際には、ほとんどが表計算ソフトなどを使いながらの手作業で多大な労力をかけていた。しかも、データ内容の粒度は粗いものであった。従って、投資案件やプロジェクトごとの予実管理、更には各事業セグメントの収支把握は正確さ、即時性において不十分な状況にあった。また、世界各国に広がる拠点での税制変更などに対応するための改修・改善も限界に来ていた。
そこで、NCAでは2007年12月に、SAP ERPをベースに、グローバルスタンダードな会計システムを新規構築し、上流基幹システムとのデータ連携を実現させることで全体統合を図ろうと考え、これらの課題解決に向けてプロジェクトをスタートさせた。
プロジェクトの概要
システムの達成目標
統合会計システムは「i-Account」と名づけられ、達成目標として下記の内容を掲げた。
- 1.事業戦略分析の支援基盤強化
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- 週次ベースでのトレード採算※、路線採算などの自動処理化と精度向上
- 予算管理業務の精度向上(投資予算・費用予算と実績管理)
※北米・欧州・アジアなど方面別輸送採算
- 2.グローバル経営の支援基盤強化
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- グローバル経営に即した新会計システムの構築
- 企業活動データ(グローバル経営情報)の一元管理
- 3.全社システムの統合化
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- i-Sky(運航管理システム)、i-Cargo(航空貨物輸送管理システム)、i-Macs(機体整備管理システム)などの基幹システムと自動連携させ、全社システムの統合化を実現
- 4.経理業務の効率化及び内部統制強化
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- ワークフロー機能を利用した伝票処理の効率化・迅速化
- 内部統制(J-SOX)への対応
- 5.TCOの削減
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- 世界各地の実情に合わせたシステム展開とそれに関わるコストの削減
- 将来の法改正・税制改正に関する改修コストの削減
「i-Account」と名づけられた本システムは、2007年12月に構築プロジェクトを開始し、2009年7月に、日本国内及び欧州・アジア・北米の各拠点(支社・支店)において世界同時稼動した。
システムの概要
1機が1時間飛行するために必要な基礎経費をACMI原価といい、機体費・乗員費・整備費・保険料が元となる。実際の飛行では、更に貨物運送費や燃料代などが費用としてかかるが、同一地点間を飛行する場合でも、飛行状況によってこれらの数値は毎回変動する。また、定期便もあれば、臨時便やチャーター便もある。
「i-Account」は、すでに運用を開始していた3大基幹システム「運航管理システム(i-Sky)」、「航空貨物輸送管理システム(i-Cargo)」、「機体整備管理システム(i-Macs)」と緊密にデータを自動連携している。これにより、路線採算・上屋採算・トレード採算などの多次元分析を施した事業系採算レポート、事業別/部門別収支・活動基準原価明細、為替影響額分析などに対応した経理系PLレポートなどもオンラインで提供可能となった。
■i-Account全体図

収支情報は週次サイクルで、大きくはトレード単位、便単位、小さくはAWB(航空貨物運送状)や引渡し空港、プライオリテイの高い輸送商品名など、さまざまな切り口まで、ほぼ実算に近い標準原価を用いて算出でき、よりタイムリーに経営情報を提供している。月次の実費用による確定採算も乖離はほとんどなく、財管一致を実現している。
SAP会計システム利用対象のNCA海外事業所とコンピューターセンター
一方、社員の諸経費精算(旅費・交通費など)に関しては、各国の事情や規程を盛り込むことで、国内外の全社員がi-Accountユーザーとなり、リアルタイムなオンライン処理を可能としている。
国際航空会社の特徴として、日本語・英語の対応、各国の通貨や会計規則への対応なども、SAP ERPの導入で実現させた。また、東京での一極集中処理を行うためには、システムの24時間・365日ノンストップの安定稼働が条件となるが、東京都内のNCAコンピュータセンターでは、機器・ネットワークの二重化や仮想化技術を導入することで可用性を確保している。
導入パートナーとしてのB-EN-G
本システム構築のパートナーは、複数のSIerからB-EN-Gが選ばれた。
パートナー選定にあたった 苅谷雅明 執行役員(管理本部IT戦略担当 当時はIT戦略部長)はB-EN-G採用の理由として、「海外でもSAP ERP導入実績があることや物流に関する知見やシステム化の実績が豊富にあることはもちろんですが、システム化の提案段階そして要件定義から開発・導入までをシームレスに、社員による一環したプロジェクト体制が組めることで、きちんとしたプロジェクト・コントロールができる点を高く評価するとともに大いに期待しました。『社長からプロジェクトメンバーまでの顔が見える』ことが重要だと常々考えており、B-EN-Gがそれに叶いましたね。」と語っている。

苅谷雅明 執行役員
また、実際にプロジェクトを推進していく過程では、「参画メンバーの制度会計への知見の高さ、そしてNCA業務に関する知識習得力の高さに、ユーザー側が満足してくれたことが一番ですね。IT側では作業計画づくりにおいてもデータ移行や他システムとのインターフェースなども含め、極めて信頼できるWBSが提示されたことを評価しました。当然ながらこのWBSに沿ってプロジェクトの進捗管理を行っていくのですが、各タスクの優先順位付や先行関係、残課題の管理など、そのタイムキープのためのプロジェクト運営は的確でしたね。
とにかく、B-EN-Gメンバーは誠実でしたね。私は、プロジェクトを進めるにあたっては、まず全体図を描き、そして具体的なデザインに落とし込んでいくことを心がけていますが、B-EN-Gのメンバーとも、それをスムースに共有できたように思います。」
導入の効果
「i-Account」の稼働により、前週の収支分析情報を翌週には算出し、その週の営業会議や役員会で報告されている。新システムで実現できた収支分析の改善内容とそのデータ粒度については、NCAが下図にまとめている。

NCA作成資料より抜粋
これらのきめ細かい単位での収支把握は、確実に営業戦略に活かされており、たとえば、路線の増・減便の決定や、運航計画の見直し、コスト削減策の実施につながっている。

栗田真充 IT戦略部副部長
「この管理会計のおかげで収支が見え、収益向上への取り組みができたといっても過言ではない。」と栗田真充 IT戦略部副部長は語る。「一般的に、きめ細かな管理会計を実現しようと思えば、入力の細かさが必要とされて現場からは敬遠されがちですが、その点では、弊社は、管理部門と現場が隣接しており、管理部門でも現場感覚があるので、改善モチベーションが高く、一方、現場はデータ入力の目的を理解しているので、特に支障なく双方が一体となって新鮮できれいなデータをシステムに入れてもらっています。」 システムの効果は、システムそのものだけでなく、そのシステムの利用の仕方に大いに左右されることが伺える発言である。
また、業務効率の面では、「経理資料作成の業務効率が向上し、以前なら3〜4名で多くの日数を費やして収支報告を作成していましたが、現在では1名が担当し、ほんの1~2日の作業ですんでいます。」とのことである。
NCAでは、今後は、企業全体のシステム像を見据えつつ、IFRSへの対応や航空業界における経営環境の変化などに俊敏に対応するなど、更なる高度利用に取り組むことであろう。
※記事内における組織名、役職、数値データなどは取材時のものです。閲覧される時点では変更されている可能性があります。ご了承ください。
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