ヘルスケアの未来を共に創る
ライセンサーが考えるライフサイエンスの未来
第2回 ケルバー(Körber)
MES(製造実行システム)の「PAS-X」を筆頭に製薬業向けのソフトウェアやサービスを展開しているケルバー社。そのソフトウェア部門のSVPは、次代のあるべき姿「ファーマ4.0」を見据えた上で世界市場や日本市場をどう捉えているのだろうか。PAS-Xのパートナーとして日本国内で事業を展開しているビジネスエンジニアリングの羽田雅一と宮澤由美子が東京都内のケルバー・ジャパンのオフィスを訪ね、ケルバーファーマ事業領域ソフトウェア担当 シニア・バイス・プレジデント(SVP)のオリバー・ウェーバー(Oliver Weber)とオンラインで対談した。(文中敬称略)
(オンライン)ケルバーファーマ事業領域ソフトウェア担当 SVP オリバー・ウェーバー氏
(写真中央)ケルバー・ジャパン株式会社 ファーマソフトウェア ジェネラルマネジャ マーチン・べロスキー(Martin Brillowski)氏
(写真左)ビジネスエンジニアリング株式会社 代表取締役社長 羽田 雅一
(写真右)ビジネスエンジニアリング株式会社 取締役 ソリューション事業本部 副事業本部長 宮澤 由美子
羽田:ビジネスエンジニアリング(以下、B-EN-G)は、製薬業界のお客様を対象に、ケルバー社ファーマ事業領域(以下、ケルバー社)のMES(製造実行システム)製品「PAS-X」の導入支援サービスを手掛けています。製薬業界は今後、スマートファクトリーなどを念頭に置いたデジタル化を加速させなければなりませんし、その一方では、厳格さを増すGMP規制にも対応しなければなりません。その文脈において私たちは、ケルバー社が提供する製品、あるいはケルバー社ならではの価値を日本のお客様に訴求していくことがとても重要だと思っています。また、ケルバー社とのパートナーシップをさらに強化して、提供し得る価値をもっと大きくしていきたいとの願いもあります。そうした背景から、今回の対談をお願いした次第です。
オリバー・ウェーバーCEO(以下、OW):承知しました。宜しくお願いします。
グローバル製薬大手に採用されるPAS-X
羽田:まずケルバーグループや、ケルバーファーマ事業領域について教えてください。
OW:ケルバーグループはドイツに本社を置くテクノロジー企業で、1946年の創業から80年を迎えることになりました。軸足を置いている事業領域はテクノロジー、サプライチェーン、そしてファーマの3つです。世界各国に約1万3000人の従業員を擁し、売上は約30憶ユーロの規模に達します。
3つの事業領域のうち製薬業界にフォーカスを合わせてビジネスを展開しているのがファーマ事業領域です。強みは総合的なエコシステムでお客様に価値を提供できること。無菌処理、検査、包装のための機械や材料、輸送システム、そしてコンサルティングサービスやソフトウェア、さらにデジタルおよびAIを活用したソリューションにわたる独自のポートフォリオを持っており、製造プロセスにおける異なるレイヤーを統合できるようサービスを提供しています。
我々が手掛けるソフトウェア製品の中で、代表格となるのが冒頭で羽田さんが言及されたPAS-Xです。ソフトウェア事業としてみると、グローバルな製薬企業トップ10のうち8社に導入してサービスを提供しているのに加え、世界中の約200社の顧客に対し、500拠点以上に導入済みです。分野としてはニッチかもしれませんが、我々はこのソフトウェアを携えて35年以上にわたって地歩を築き、ナンバーワンのプレーヤーになったと言ってもいいでしょう。PAS-Xは業界の幾多のアワードにも選出されてきました。
顧客の個別の要望に柔軟に対応
羽田:先ほど「製造プロセスにおける異なるレイヤーを統合できる」との話がありました。具体的には、物理的な製造プロセスを監視したり制御したりする「L2」や、工場全体の製造オペレーションを管理する「L3」などのことですよね。
図1 PAS-X 外部インターフェース標準化とB-EN-Gのインテグレーションスコープ(出典:ビジネスエンジニアリング)
OW:はい。ファーマ事業領域としては、「どのように製造するか」の自動制御を担うL2や、「計画通りに、かつ品質基準を満たして製造されているか」の管理・実行を担うL3を完全に統合して工場を稼働させたいと考える製薬企業にとって、当社のアプローチやソリューションは注目されており多大な影響力を持っていると自負しています。
我々のソリューションは、まず全体的な設定の考え方としてマネジメント層だけでなくオペレーターのニーズにも対応できるようにしています。一方で、個々の拠点の事情も重要視しており、それぞれが必要なものを取捨選択し好みに合わせて構成できるようにしています。なぜなら工場ごとの要件は千差万別だからです。それぞれのニーズにうまく適合させられるからこそ、「完璧なソリューション」と言えるのです。
お客様、特に大規模なお客様のほとんどは、単一のネットワークで世界中24時間365日の運用をしています。他の市場に進出するとなれば、私たちはそれに追随し、彼らが慣れ親しんでいるのと同じ生産・製造環境を、彼らの特定の要件に従って構築することを支援します。
羽田:なるほど、お客様のいかなる要望にも対応できる準備がすでに整っているということですね。お客様の中には、製造のプロセスをさらに高度化させていきたいという動きもあると推察します。
OW:私たちのポートフォリオについて言及する際に強調したいのは、製薬向けソフトウェアスイートがPAS-Xだけで構成されているわけではなく、「PAS-X Savvy」もまた重要なピースだということです。PAS-X Savvyは主にデータの管理や分析を担うソフトウェアで、部門や拠点の垣根を越えてデータのリアルタイムでの分析や可視化を強力に支援します。例えば、顧客がデジタルツインを構築した際に、データの集約や分析、レポーティングを通じて、製造プロセスや規制、コンプライアンスに関わるあらゆる実績を共有しながら組織を一枚岩にすることが可能です。
インプリメンテーションやコンサルティングのサービスも提供しており、そこでは世界中の多くのパートナーと協業しています。我々の究極の目的は弊社のソリューションや製品の価値をお客様に享受してもらうことであり、一つひとつの機能のみならず、他のツールとの連携なども含めて製品や業界を熟知したパートナーと組んでいます。それは弊社の製品ポートフォリオを完全に補完する取り組みであり、ケルバーそしてケルバーファーマ事業領域がまさに注力していることなのです。
ビジネスのやりがいがある日本市場
羽田:製薬業を対象に貴社がPAS-Xだけではなく、他のソリューションやサービスも含めて総合的な価値を届けようとしていることが分かりました。日本市場については、どのように捉えていらっしゃいますか。
OW:当社の組織体制について少し説明させてください。私たちは、 EMEA(主にヨーロッパと中東)、 APAC(アジア太平洋地域)、そして米国の3つの地域で事業を展開しています。戦略的にいずれもが大事であり、すべてで成功を収めたいと考えています。
ケルバーはEMEAでの成功で成長してきた経緯があるので今なお収益のトップはこの地域です。それに次いで米国、僅差でAPACが続いています。見方を変えると、APACのビジネスを大きくすることが我々にとって重要であり、その中でも日本は、私たちが提供できることがユーザー価値へとうまく結び付くと考えられるのでコアとなる市場の一つです。
日本は並々ならぬ品質やパフォーマンス、実践能力を要求する市場だとも言えるでしょうか。ソフトウェアの可用性や機能の面での要求水準は高く、コンプライアンスや規制、そして国際標準を尊重する姿勢も確固としています。非常に魅力的な市場ですし、私たちのポートフォリオにとっても重要な役割を果たします。
この市場をものにするには、グローバル展開し日本でも操業している顧客と共に足場を築くことのみならず、地場の企業と共に成長することが欠かせません。ノバルティスやバイエルといったグローバル製薬業のお客様の日本拠点の支援は一つのきっかけとなるものの、日本国内のパートナーと緊密に協業しながらビジネスを伸ばしていきたいのです。
この時、 単にソフトウェアなどを納入できるだけのパートナーを見つけることには興味はありません。私たちが求めているのは、市場で私たちが設定している基準を遵守し、製造プロセスについて造詣が深く、ソフトウェアスタックをうまく組み合わることで、本来届けたいとしている価値を具現化してくれる真の実力者です。
ターゲットは大手だけではない
羽田:弊社は日本においてグローバル査察が求められるお客様にPAS-Xを展開しています。貴社の基本的な考えとして、グローバル製薬業との関係を深化させていくのか、それとも裾野を広げて中堅企業にもフォーカスしていくのか、どちらなのでしょう。
OW:世界的に見てケルバーはTier 1 に位置づけられるグローバル大手製薬企業を顧客とする製造DX/MES分野のマーケットリーダーであり、この市場は年率10-15%で成長し非常に魅力的な分野です。一方で、私たちは、Tier 2 に相当する準大手企業、さらに一部の市場におけるTier 3 セグメントにも高い関心があります。ここでは、PAS-Xが備える全機能は必ずしも必要ないでしょう。目下、より簡易なバージョンの PAS-Xを用意する、あるいは小規模製造業向けのクラウドサービスを提供している企業を買収することを検討しています。
世界には、顧客となり得る医薬品製造業者が約6000社存在し、それらの企業はまだ紙とペン、あるいはMESとは言えない水準で製造手順を記したバッチレコードを使用しています。しかし、それらの企業の一部は急速な変化にさらされており、規制が強化されています。PAS-Xと同等のスコープを持つ必要はないまでも、こうした企業が直面する課題を解決するソリューションが必要だと考えています。そのため、レシピに従って原薬・添加剤などの原材料を秤量する「Weighing and dispensing」機能や、紙ベースから何らかのMESへと移行するための暫定措置、例えば今までの紙のイメージはそのままに電子的に取り扱えるようにする「Paper on glass(紙帳票を画面上でそのまま扱うアプローチ)」のような機能が必要になるのです。
規制などに対応するために、どの企業も紙、あるいは簡易的なバッチレコードをベースとしていたやり方からMESへの「移行段階」を経ることになります。それは簡単なことではなく、コンサルティングサービスを必要とするでしょう。弊社としてのサービス提供という観点で考えるとそこが大事です。
そのことも含め、もう一度、羽田さんの質問に立ち返ると、Tier 2、さらには一部の Tier 3 セグメントにも明確な関心を持っています。中国を例にとると、40社の顧客のうち数社はグローバル大手ですが、大半は現地企業です。現地には専任の担当者も配置しておりますが、事業規模を拡大してくのは一筋縄にはいきません。だからこそパートナーが必要なのです。
羽田:頷ける点が多々ありました。日本には準大手、中堅製薬企業が多く存在しており、その支援においてはPAS-Xが備えているようなフルスペックは必要ない可能性もあります。少なくとも秤量「Weighing and dispensing」は必要だとか、そのあたりの意見交換はこれからもさせて頂きたいと思います。
データの高度な利活用に向けて
宮澤:オリバーさんのバーチャル背景に「AI-Powered Manufacturing」とあるように、私どもとしても製薬業の次なる姿に想いを寄せています。PAS-Xで収集したデータをプロセス改善や品質保証、マスターバッチレコードの変更などに活かしていくには、分析から気づきを得ていくことが大事になると思います。先ほどお話があったように、ここはPAS-X Savvyが使われるということでしょうか。PAS-Xとの関係性も含めて教えてください。
OW:製薬業界におけるデジタル変革のあるべき姿を標榜した「ファーマ4.0」を実現する上で、PAS-XとPAS-X Savvyの2つは非常に重要な役割を担うことでしょう。まず、PAS-Xは、「高度に連携した」スマート工場を構築するために不可欠なMESです。GMPに準拠しつつ、モジュールで構成しており、プロセス開発から商用生産、そして最終的なパッケージングに至るまで、医薬品のすべての製造プロセスをリアルタイムにデジタルで制御、監視、文書化することを可能にします。
また、PAS-Xは、多くの周辺システム、例えばERP、文書管理、品質イベント管理、LIMSなどと完全に統合できます。品質や規制遵守に関して、当社のPAS-Xソリューションの最大の強みは、市場の中で最も接続性の高いソリューションであるという点だと考えています。
多くの製造現場にとっての難題は、異なる設計思想や構造を持った複数のツール群がすでに導入されていることです。それら全てをどのように接続し、マスターバッチレコードや電子バッチレコード(EBR)といった中核となる製造記録を、どこに一元的に保持すべきなのか──多くの現場がこの点で悩んでいます。それらのレコードは、学びを得たり、うまく再利用したり、規制当局に情報を提供したりに役立つことは分かっていても、どうすればよいか具体策が思い浮かばないのです。その点においてPAS-Xは、製造に関わる全てのデータを収集すると共に、思い通りに製造するプロセスを支援できる極めて有効なツールです。
図2 医薬品開発ライフサイクルとPAS-X Savvy・PAS-Xの活用全体像(出典:ビジネスエンジニアリング)
質問のあったPAS-X Savvyは、その構図において極めて重要な役割を果たします。データのレイヤーに位置する分析ツールのようなもので、製造関連や品質関連など、異なるシステムからのすべてのデータを結合することができるからです。世界中に50以上の工場を持つような大手グローバル製薬企業でさえ、製造現場の生産実績、ダウンタイム、品質問題などに関する十分な情報を利用できていないという状況を頻繁に見聞きします。一体どこに全ての情報を内包した、一元的なデータウエアハウスを構築するか──PAS-X Savvyはそんな悩みに応えるツールなのです。
もっとも、PAS-X Savvyは、PAS-Xの実装よりも多くの専門的サービスを必要とする側面もあります。製造プロセスの可視化と解析を一手に担うものであり、各種レポートの元となる「一元的なリポジトリ」として機能させるには高度なスキルやノウハウが欠かせません。企業ごとに狙いや用途は千差万別であることも、専門的サービスを必要とする要因です。
収集したデータの利活用という文脈では、「MBR(マスターバッチレコード)の設計と管理」という重要な観点もあります。多くの企業が直面しているのが、「ローカルMBR 対 グローバルMBR」という課題です。なぜグローバルMBRを使用し、それを異なる市場に展開して活用するためには適切なインフラストラクチャとシステムが必要です。PAS-Xはその実践を可能にする機能と基盤を備えており、私たちはお客様がそれを実現できるよう支援しています。
サイクルタイムの抜本的短縮に期待
宮澤:実際にPAS-Xを導入する企業は、どんな点を評価しているのでしょうか。製品開発から商用生産に至るまでの組織的な連携など、色々な観点があるかと思います。
OW:私たちは年間で15から20以上の新規顧客を獲得しており、ほとんどは、それまで利用してきたソフトウェアからのリプレースです。いつも気にかけているのは「私たちに声をかけてくれて最終的にPAS-Xを採択した理由は何なのか」という点です。韓国での例を挙げてみましょう。韓国では、非常に大きな製薬会社との案件が成功裏に進んだのを機に次々と顧客が広がっています。彼らの動機は、「一連のプロセスにおける早い段階を起点とできるソリューション」を求めていたことでした。ラボでのクオリフィケーション、すなわち「医薬品の製造装置やシステムが正しく設置され、正確に動作し、期待される結果を出せることの検証や文書化の段階」から、実際に「医薬品が工場から出荷される」までには、非常に長い時間を要すことを問題視していたのです。
製造の承認から製造までには3カ月から6カ月かかることもあります。その時間を大幅に短縮するのに役立つのがPAS-Xです。承認前の治験薬製造段階での諸条件や実績に基づいて、商用品製造のプロセスや品質を制御するバッチレコードへと変換する機能などが特徴的です。このようにPAS-Xはサイクルタイムを短縮するのにうってつけのツールですし、実際の製造過程においてもダウンタイム(停止時間)の短縮や削減などに大きく寄与することができます。
さらにPAS-Xは、ダウンタイム削減にとどまらず、高いアップタイムを安定的に確保できる点でも評価されています。大規模製造においては、ダウンタイムは直接的なコスト増につながりますが、遺伝子細胞治療などの小規模製造においては、稼働停止そのものが患者リスクにつながるケースもあります。PAS-Xは、こうした領域においても高い可用性を確保し、TCO(総所有コスト)の削減と製造の信頼性向上を同時に実現しています。また、デジタルツールを通じてオペレーターを継続的に支援・教育し、製造プロセスを滞りなく遂行できる点も重要な評価ポイントです。
現地パートナーが備える市場での信頼を評価
羽田:先ほど、アジア太平洋地域のビジネスに力を注ぐと仰っていました、例えば日本で展開していく時に、私たちのようなパートナー企業との連携をどのように考えているのでしょうか。
OW:日本は私たちにとって非常に魅力的な市場ですが、非常に複雑な市場でもあります。これまでの経緯からも分かるように、この市場で成功するには現地ならではの要件を深く理解していなければなりません。ですから、海外勢が日本でビジネスを推進するには現地のパートナーと協力が必然の流れかと思います。
パートナーに全てを任せるという姿勢ではなく、日本市場に地歩を築くには強力な現地チームが必要です。日本で営業やプリセールス、ソリューションアーキテクト、プロダクトマネージャーといった役割の人材を配置し、ドイツ本社のプロジェクトマネジメントやソフトウェア開発チームと密接に連携するケルバーのグローバル体制を整える予定です。
いざ、製品を顧客の環境にデリバリーするに至り、先方と直接会話しながら課題を解決したり要望に応えたりする場面、すなわちクライアントフェイシングについては、パートナーと共に対応したいですね。パートナーは市場で長年にわたる評判や信頼を築いていますから。顧客の要件や市場の要件をプロジェクトに落とし込むことに関しては、私たちは常にB-EN-Gさんのようなパートナーと協力して進めていきます。
宮澤:貴社の営業やプリセールス、ソリューションアーキテクトなどの方々に対して、私どもB-EN-Gがしっかり連携させていただきお客様の声をお届けしますね。
協力関係をさらに価値あるものにするために
羽田:パートナーとして、対顧客の手厚いサポート以外にも貢献できることは多々ありそうです。
OW:緊密な協力に想いを寄せる時、私はB-EN-Gさんの能力を「お客様が信頼できるパートナー」に限定したいとは思いません。成功するパートナーの条件とは、製品のロードマップにも影響力を持ち、ケルバー側のキーパーソンにも影響力とアクセス権を持つことです。つまり、市場の特定のニーズに関してケルバーに「物申す存在」であってほしいのです。
これまでの経験から、日本の企業は他とは異なる要件を持っていることを理解しています。吊るしの服で全ての人の体型にフィットするわけはありません。各国ごとの規制などもありますからローカル市場向けの計画に関しては柔軟性を持つ必要があります。うまくやっていくには、ソフトウェアの次期リリースのロードマップの定義に関して、パートナーも積極的に関与することが大事だと私は考えます。
羽田:仰ることはよく分かります。実はB-EN-Gは一般の製造業に向けたサプライチェーンのソフトウェアを独自開発して展開しています。販売するだけじゃなく、導入やカスタマイズにも対応し、さらには製品に対するフィードバックもしてくれるパートナーはとてもありがたい存在であり、大事にしなければなりません。オリバーさんの話をきいて、我々自身もそうなりたいとの想いを新たにしました。
OW:米国、ブラジル、フランス…。どこも同じ状況にあります。パートナーと協業する際はいつもインプットがほしいと思っています。パートナーは顧客に非常に近く、何に困り、何を必要としているかを肌身で理解しているからです。それらは、当社のロードマップ計画の候補となるインプットとして、完璧な情報源なのです。
バッチの小規模化と個別化の潮流
羽田:これから5〜10年後を見据えると、製薬業界はどう推移して、どのようなトレンドが続くと見ているのでしょうか。
OW:まずTier 1に位置づけられるグローバル大手製薬企業を主要顧客とする製造DX/MES分野はグローバルで年率10-15%も成長しているので非常に魅力的です。コロナ禍を経験したことによって多くの国や地域では、重要な医薬品を製造するのに十分なローカルキャパシティ(現地生産能力)やローカルケイパビリティ(現地技術)の欠如が露呈しました。サプライチェーンがグローバル化の犠牲になっていたわけです。そこでの反省が成長の一つの推進力となっています。
メディカルサイエンスや研究での進歩には目を見張るものがあり、その結果として新薬が続々と市場に登場しています。各国が新型コロナワクチンの製造を急いだのは記憶に新しいところですが、GLP-1(糖尿病や肥満治療などで注目を集めている医薬品分野)に代表される新たな成長領域が、製薬業界の成長を牽引しています。
一方で、私たちがより本質的な変化として捉えているのは、医療研究が進歩するにつれてバッチサイズがますます小さくなるばかりか、個別化にも拍車がかかって、製薬業者に多くの課題をもたらしているという事実です。
製造プロセスにおいて唐突に対応を迫られる場面が頻繁に訪れます。あるバッチから次のバッチへの変更、ある場所から別の場所への変更、それは国内北部の工場での製造プロセスを見直したり南部の工場へ切り替えたりといったことを意味します。対応には工程・拠点を横断して高度に連携した「システム」と「インフラストラクチャ」が不可欠であり、当社が非常に重要な役割を果たすことができる領域です。私たちには、世界各地に50以上の工場を構える顧客がおり、彼らはPAS-Xから得られる全てのデータをどこでも利用できる体制が整っています。これは大きなアドバンテージです。
ライフサイエンス産業での存在感を高める
羽田:そうした市場の動きの中で貴社はどのようにリードしていきたいと思っていますか。
OW:製薬業界の成長は、質的な成長というよりも、まだ量的な成長の色合いが濃い点も見逃せません。工場を建設する必要があり、工場には機械を導入する必要がある。その機械には、L2やL3などのソフトウェアを装備する必要があるということです。それが私たちにとって成長の原動力となります。
時代の趨勢も追い風となるでしょう。現在でもダウンタイムをそれほど気にせず製造ラインの1つが2日間停止しても許容される顧客がいる一方で、すでに数時間、あるいは数分の停止すら許容できない顧客も存在します。そして今後は、「どうすれば既存のインフラストラクチャを最適化できるだろうか」という問いがより一般的なテーマになっていくと考えています。
ソフトウェアのアップグレードに関しては、製造ラインを停止しての対応など許されなくなります。多くのテクノロジーがクラウドまたはクラウドネイティブ環境に移行し、製造プロセスの継続的な改善が保証されることになるでしょう。このように成長の推進力は、科学的研究の進歩だけではなく、世界中のミドルクラスの成長でもあるのです。
今後10年ほどでミドルクラスがどのように成長するかに関する数字があって、とても印象的です。彼らの医療品の供給に対する要件は様々であり、その結果として、医薬品産業はライフサイエンス産業の中に溶け込んでいくことが予想されます。ここでライフサイエンスとは、農業からバイオなど多種多様で最先端の研究に基づいた産業を意味します。
ケルバーは10年間のビジョンプログラム「LIFE 2035」を立ち上げました。この名称には、リーダーシップ(Leadership)、イノベーション(Innovation)、財務的自立(Financial independence)、そしてエンパワーメント(Empowerment)の頭文字を取ったもので、10年先を見据えた企業ビジョンを示すものです。その中でケルバーはライフサイエンス産業でも非常に重要なプレイヤーとなることを重要な目標として掲げています。その結果として、将来的には従業員数6万人、収益100億ユーロ規模の企業となることを目指しています。
ローカルプレーヤーの発展のために
羽田:買収なども伴った大企業による寡占化もあるでしょうし、多種多様なライフサイエンスの発展に伴ってニッチを得意とする規模の小さな製造業も躍動することでしょう。その両方をサポートしていくということですね。
OW:グローバル大手製薬企業(Tier 1)が市場の中核を担っている一方で、私はTier 2 や Tier 3 に相当するローカルのプレイヤーが今後ますます重要な役割を担っていくと考えています。
例えば、私が住んでいるスイスを例に挙げましょう。他と比較すると、非常に小さいながら要求の厳しい市場です。ロシュやノバルティスなどの大手もいますが、医薬品を製造している少なくとも500社の小規模なプレイヤーが存在します。
イタリアも同様で、小規模な家族経営の製薬会社が市場の一大勢力です。製造プロセスや品質の管理を「紙とペン」に依存しているケースも少なくありません。こうした準大手・中堅企業セグメントにおいては今後デジタル化が大きな推進力になるでしょう。だからこそ、このセグメントにフィットするよりシンプルなソリューションを提供したいと思っています。
再び日本市場に話を転じるなら、B-EN-Gさんと共に準大手・中堅企業市場について検討していける可能性を、私自身とても前向きに捉えています。我々としてはアジアの準大手・中堅企業市場についてのデータをはじめ、要件、価格帯、導入モデルなどについては、すでに一定のデータを把握していますので、もし機会があれば、別のセッションで意見交換できればと思います。
羽田:はい。 ありがとうございました。未来に向けて、日本のお客様にメッセージをしっかりお届けしたいと思います。
企業プロフィール
企業名:ケルバー・ジャパン株式会社
創立:1995年5月8日
事業内容:外観検査機、包装機械(ブリスター、カートナー)、搬送機、MES(製造実行システム)ソフトウェア(PAS-Xなど)、トレーサビリティシステム(Track & Trace)、GxP/CSV/DIなどのコンサルティングサービス


