プロフェッショナルに聞く

属人化した「Excelリレー」からの脱却
需要・供給・在庫を同期させ、消費財ビジネスの
「全体最適」に挑む

2025.12.25

B-EN-Gの人 プロジェクト

話者:ビジネスエンジニアリング株式会社
ソリューション事業本部
デジタルビジネス本部 デジタルコンサルティング部
コンサルタント
中尾 文哉(なかお ふみや)

「自らの希少価値を高めたい」という希望が叶い、新卒入社したばかりの中尾文哉がアサインされたのは、国内初となるSAP IBPの導入プロジェクトだった。以来、サプライチェーン計画システムの構築・運用支援に一貫して携わっている。特に消費財メーカーとのプロジェクトでは、単なるシステム導入にとどまらず、需要予測から在庫の適正化、資材調達に至るまで、サプライチェーン全体へ深く入り込んで課題解決を続けてきた。その根底にあるのは「お客様に寄り添って、最後まで投げ出さずにやる」という強い信念だ。

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希少価値を求めて国内初となるSAP IBP導入プロジェクト
に参画

大学院を卒業して2017年にビジネスエンジニアリング(以下、B-EN-G)へ入社した中尾は、自らのキャリア形成について最初から明確な方針を定めていた。「自分の希少価値を高めたいという思いがあり、あまり先駆者のいない分野に配属してほしいと会社に希望を出しました」(中尾)

その念願が叶い、中尾はサプライチェーン計画ソリューションを扱う部署に配属され、某大手医療機器メーカーのプロジェクトにアサインされた。そこで当時の国内初となるSAP IBP(Integrated Business Planning)を基盤としたグローバルS&OP(Sales and Operations Planning)標準化およびサプライチェーン計画システムの構築を担当することになる。

「プロジェクトはまだ立ち上がったばかりというタイミングにも恵まれ、業務要件定義から設定作業、システムテスト、ユーザー教育&受入テスト、運用保守まで、一通りのプロセスを経験することができました」(中尾)

システム導入をもって、プロジェクトは完了するわけではない――プロジェクトに携わる中で、中尾はこの重要な教訓を得た。特に計画系システムでは最初の段階から要件を固めきるのは困難で、運用フェーズに入ってから想定と異なる問題が生じることが珍しくない。

実際にこのプロジェクトでも、運用開始後に多くの「想定外」に直面した。
「お客様が目的とする成果を得られるまでしっかり伴走することが、B-EN-Gのコンサルタントに課せられた使命であることを痛感しました」(中尾)

この気づきこそが、次のプロジェクトでの大きな転換につながっていったのである。

需要予測はあくまでスタート地点
「生産・物流」までの全工程を同期させる

入社3年目の若手ながらSAP IBPの経験者となった中尾が、新たにアサインされたのは、とある大手消費財メーカーにおけるS&OP業務改革、サプライチェーン計画システム構築および運用保守だ。現在は中尾自身がPMに昇格し、全体統括を担っている。

そもそもこの消費財メーカーは、どんな課題を抱えていたのか。
「Excelを使って各部門がバラバラに計画を作成していたのです。営業部門が立てた販売計画を受け、工場の生産管理部門が生産計画を作り、それを引き継いで資材調達部門が調達計画を作るといった形で、複数のExcelシートをリレーして全社の業務フローを回していました。したがって些細な変更があるたびにメールや電話での連絡が必要となるなど、各部門の現場には煩雑な対応が求められます。」(中尾)

この「Excelのリレー」による手作業は、単に手間がかかるだけでなく、ビジネスのスピードを落とす要因となっていた。計画作成に時間を要するため、原材料の仕入れ先への連絡はいつもギリギリになり、仕入先各社に重い負担を強いていたのだ。さらに消費財業界では、常に消費者の購買意欲を喚起するための商品・企画品のリニューアルが頻繁に行われるという、特有の難しさもあった。

「短い製品ライフサイクルに対応し、生産設備を新製品向けに改変する期間を確保しつつ欠品を回避し、なおかつ旧製品の資材を使い切るという緻密な計画作成が必要となります。従前のようなExcelリレーの手作業に依存した体制では、やがて立ち行かなくなることが目に見えていました」(中尾)

そこでまず着手したのは、少数のベテラン社員に依存した需要予測を標準化することである。しかし、それはプロジェクトの第一歩に過ぎない。次に目指したのは、その予測データを起点に、生産・調達・在庫といった後続のプロセスまでを一気通貫で同期させる「サプライチェーン全体のシステム化」だった。

「お客様は多品種少量の製品戦略をとっており、在庫保管料などの物流費削減が至上命題でした。しかし、単に在庫を減らせばよいわけではありません。欠品による機会損失を防ぎつつ、旧製品の部材を余らせて廃棄するというムダも防ぐ。このトレードオフを解消するために、SAP IBP上で需要と供給の計画をつなげました」(中尾)

需要の変動が即座に工場の生産計画や必要な資材量へと反映される仕組みを構築したことで、無理のない生産計画の立案や、在庫リスクの早期発見が可能になった。

さらに、この情報の連鎖は社内だけにとどまらない。

「計画変更の度に仕入先への連絡が遅れ、急な対応を強いることが常態化していました。そこで、業界でも極めて珍しい取り組みですが、全ての仕入先企業で同じIBPシステムを直接利用する体制を構築しました。仕入先企業は自らシステムにアクセスして最新の計画を確認できるため、より早い情報共有と迅速な対応が可能になりました」(中尾)

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丁寧なエンドユーザー対応で現場の「信頼」を勝ち取る

こうした壮大な改革も、現場のエンドユーザーに使われなければ意味がない。そこでB-EN-Gのコンサルティングチームが徹底したのが、業務現場との緊密なコミュニケーションである。

「お客様サイドのPMだけでなく、実際にエンドユーザー個人からも意見をもらい深堀りしたところ、従来の慣れ親しんだ手順からの変更に心理的な抵抗を感じていたり、システムの機能面に不満を持っていたり、さまざまな改善の余地があることが明らかになりました。」(中尾)

そこで次のような対応を実践していった。
1つ目は「販売予測値がどう計算されたかわからず何となく信用できない」「将来の在庫推移の予測をもとに生産計画を立てたいが、予測の起点となる在庫実績が正しく基幹システムから取得できているか不安」といったエンドユーザーのもつ漠然とした不安を取り除くための対応である。
システム予測値と実績の比較検証を数カ月にわたり実施し、「システムによる販売予測値は従来手法と大差なく、むしろ上回っている」という理解と納得を得ることができた。

2つ目は現場要望へのきめ細かな対応だ。「予測精度の高い商品を優先表示してほしい」「生産の担当者、商品種別ごとに並び替えてほしい」「物流部門との議論や指示出しに使う、簡易シート(出荷数量、日付を一覧にしたもの)を追加してほしい」などのエンドユーザーからの細かい要望について、標準機能から外れた個別要件の作り込みも辞さずに素早く応じることで、新システムへの抵抗感を解消していった。
さらに販売部門のリーダーに対して、システムの需要予測を利用することで計画作成に要するリードタイムをどの程度短縮するか目標を立ててもらうなど、業務目標を自ら設定するよう促して、全社的なマインドチェンジを図ってきたことも重要なポイントだ。

プロジェクトに終わりはない
計画システムの柔軟な変化が必要

こうしてSAP IBPを基盤とするサプライチェーン全体の計画策定が定着化した現在も、プロジェクトに終わりはなく、さらなる進化を続けている。国内だけでなく海外拠点も視野に入れたシステムの横展開、周辺事業への対応、さらには市場環境の変化に伴う計画手法の見直しなど、新たな課題も次々と生まれている。

「サプライチェーン計画の立て方に、絶対の正解と言えるものはありません。人や製品に依存した個別要件が無数に存在しており、手順の統一は非常に難しいテーマです。現時点では業務標準化を目標にプロジェクトを進めているものの、一方で手順を完全に画一化してしまうと、かえって業務が円滑に遂行できなくなるおそれもあります。また、企業が直面する業務課題は常に更新されるものです。ある時点の計画手順に過度に最適化してしまうと、新たに直面した課題に対応できない、といった問題が発生します。それこそが計画系システムの難しさです。だからこそ、お客様が直面している課題の本質を捉え、しっかり伴走しながら、計画システム側も柔軟に変化に対応していくことが強く求められます。」と中尾は意を新たに語る。

こうした消費財メーカーの取り組みを、中尾を中心とするB-EN-Gのコンサルティングチームは、引き続き親身にサポートしていく姿勢を示す。中尾自身としても、自分に続いてプロジェクトを牽引していく人材の育成にも注力しながら、消費財業界で培った知見を他業界にも展開し、さまざまな企業の業務変革とビジネス面での成功を支えていく考えだ。

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