創立以来の事業であるシール事業を主力としながら、自動車、電子機器、産業機器など、さまざま分野に向けて独創的で多彩な製品を提供するNOK。同社では、変化が激しく不確実性が高まる中でも事業強化を図るため、販売計画業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)に乗り出し、ビジネスエンジニアリング(B-EN-G)による支援のもとでクラウド型計画プラットフォームの「Anaplan」を導入した。これにより、販売計画業務の大幅な工数削減とスピードアップを実現している。
導入製品・ソリューション
Anaplanは、多様な計画業務において、表計算ソフトを使った組織間調整の業務を、整然とした業務へ切り替えることを可能にするクラウド型のソリューションである。共通化されたワークシートをもとにデータを一元管理し、標準のプロセスを確立させる。意思決定をスピードアップさせるダッシュボード機能やドリルダウン機能も備えている。

導入のきっかけ
コロナ禍を機に販売計画DXの必要性を痛感
NOKでは従来、年次経営計画の策定に向けた「販売計画」をボトムアップの積み上げ方式によって立てていた。具体的には、各支店の営業担当者(以下、支店営業)が、顧客企業に対してヒアリングをかけ、ヒアリングの結果を販売計画へ落とし込み、計画データを表計算ソフトへと入力する。そのデータをまとめ上げて、全社の販売計画を策定するというものだ。
この方式には、相応の精度をもった計画が立てられるという利点があった。ただし一方で、表計算ソフトファイルの「バケツリレー」が多く発生して非効率である上に、支店営業に大きな業務負担がかかるといった問題があった。この問題について、同社シーリングソリューション プラットフォーム整備室 ERP整備部 ERP二課で主事補を務める西野宏貴氏はこう明かす。

整備室 ERP整備部 ERP二課主事補 西野宏貴氏
「支店営業は、実績に基づく計画に加え、拡販や値上げ・値引きといった意思入れに関わる資料作成など膨大な作業が発生していました。また、ボトムアップ型の積み上げ式で立案されるため、承認プロセスが多段階化し、担当者の業務負担は相当なものでした」
この負担に関して、同社の営業本部 営業企画部 販売管理課の門田裕匡氏は「当社の場合、その後の生産及び損益計画の工数を考慮して12月末までに翌年度の販売計画を立てる必要があります。それに向けた11月からの約2カ月間は、相当な数の支店営業が計画業務に多くの時間と労力を割かれてしまいます。このように営業リソースが計画業務に割かれてしまう状況は、組織全体として大きな機会損失でした」と語る。

このような業務課題を抱える中、2020年初頭に新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行が始まった。この想定外の事態により、2019年末に立てた販売計画と実際の販売数が激しく乖離する状況になった。それが契機となり、同社では販売計画の業務プロセスを抜本的に変革するプロジェクトを始動させた。
西野氏は「コロナ禍で痛感したのは、企業のバリューチェーンに多大なインパクトを及ぼす不測の事態がいつでも起こりうるということです。実際、パンデミック後も国際紛争や関税の引き上げなど、日本の産業界を揺るがす不測の事態が相次いで起きています。そうした『VUCA』の時代に適合した販売計画のプロセスを確立すべきと考え、デジタル技術とデータを使った計画業務の抜本改革、つまりは販売計画DXに踏み切りました。また、それによって、支店営業の負担を大幅に低減させようと考えました」と明かす。
導入のプロセス
計画づくりの合理化・迅速化を目指す
販売計画DXの構想において、NOKが実現を目指したのは以下6つである。
・表計算ソフトファイルの「バケツリレー」をなくすなどして、計画立案の効率化・スピードアップを図る。
・市場の変化が激しい中でも、可能な限り利益の出る戦略を取れるようにする。
・販売計画のスタイルをトップダウン方式へと移行し、業種ごとのメガトレンドをとらえながら本部主体で計画を立案できるようにする(※過去実績のない新規案件の販売計画については従来どおり営業側が立てる)。
・計画を見るフレームを「支店」軸から「業種」「品種」軸へ変える
・「Base Forecast(基本計画)」は、統計上の数値や過去実績からの予測値を使用する(人間の意図や思い入れが何も入らない透明性のあるデータを使う)。
・基本計画を各支店に展開し、支店側は拡販、値上げ、値引きなどの情報を使って計画を調整する。
こうした構想を実現すべく同社が採用したのが、クラウド型計画プラットフォーム「Anaplan」である。同ソリューションはSCM計画業務での適用実績を持つB-EN-Gによる支援のもとで導入することとなった。
短期導入への対応と伴走型サポートを評価し「B-EN-G×Anaplan」を採用
西野氏によれば、Anaplanは同社の構想を実現するのに適した製品であり、同製品を使ったソリューション提案は複数のベンダーから受けたという。その中でB-EN-Gの提案を採用した理由について、西野氏は「当社の実現したいことを最もよく理解した内容だったからです」と語る。
「ソリューションの選定を行ったのは2022年の中ごろで、その年の11月には、次年度の販売計画の立案にAnaplanを使用できるようにしなければなりませんでした。我々の要望と向き合うB-EN-Gの姿勢からは、そうした限られた期間の中でシステムの要件定義から構築、ローンチまでをしっかりと伴走してくれる意欲を強く感じました」(西野氏)
こうしてNOKでは、B-EN-Gの提案をベースにAnaplan導入のプロジェクトをスタートさせ、本部内に専任チームを設置した。併せて現場の営業部門や本社計画主管部のメンバーにも本業との兼務の形でプロジェクトに参加してもらい、2022年7月からシステムの要件定義・設計に着手した。9月から実装を始め、11月にローンチさせた。
西野氏は「システムを計画通りにローンチできたのは、B-EN-Gの手厚い支援があったからです。プロジェクトの期間中、B-EN-Gには週2 回の定例会に加えて、アドホックな打ち合わせを都度実施してもらいました。当社の要望に対するB-EN-Gの対応は常にクイックで、ロジックや設定の提案も積極的に行ってもらえました」と振り返る。
「データ利活用サービス」も活かす
上記のプロジェクトを通じて同社は、自動車向け製品の販売計画をAnaplanで立てる仕組みとして、B-EN-Gによる支援を得ながら、顧客企業から収集した生産台数情報をもとに計画を立てるロジックを実装した。自動車業界以外に向けた製品については、過去の販売 実績をベースに計画を立てるロジックを実装している。西野氏は「このロジックづくりにおいて、B-EN-Gからはデータ分析・活用の専門家ならではのさまざまなアイデアやアドバイスをいただき、知見を深めることが出来ました」と評価する。
さらに同社は、システムの運用開始から1 年後に、計画の精度をさらに高めることを目的にB-EN-Gの「データ利活用サービス」も利用した。これによって、外部データを使った需要予測も行えるようになっている。
導入の効果
営業担当者の計画業務負担を劇的に低減
Anaplanを使った販売計画DXによって、支店営業の計画業務負担は大きく削減された。同社 ERP整備部 ERP二課の樫谷郁希氏は「Anaplanのシステムは非常に使いやすくデータ入力も簡単で、従来の表計算ソフトファイルのバケツリレーを削減出来ました。そうした使いやすさとプロセスの改革により、Anaplan導入後は営業現場の販売計画業務の工数も、それに携わる人数も大幅に減りました」と明かす。

整備室 ERP整備部 ERP二課 樫谷郁希氏
同社の算定によれば、支店営業で計画業務に費やす時間が大幅に削減され、金額換算で1回の計画あたり数千万円規模の削減効果が生まれているという。
そうしたAnaplan活用の今後について、門田氏は「販売計画などの計画系の情報は社内の人間にとっても、社外のステークホルダーにとって重要な情報です。その計画づくりに必要とされる情報は日々さまざまなところで生まれて更新されるので、そうした情報を即座に 計画へと落とし込めるようしたいと考えます。また、足元の計画のみならず、長期計画の立案にもAnaplanを活用していくことも視野に入れています」と述べる。この言葉を踏まえつつ、西野氏は、Anaplan活用の今後についてこう展望を示す。
「Anaplanを使えば、最新の情報を取り込みながら、計画をアップデートしていくサイクルをどんどん短くできると考えています。さらに、販売から生産、調達までの一気通貫のAnaplan運用も目指しています。それらの取り組みが具体化してきた際には今回のようなB-EN-Gの支援を期待しています」
事例企業紹介
社名 | NOK株式会社(NOK CORPORATION) |
設立 | 1939年12月2日(創立1941年7月9日) |
本社所在地 | 東京都港区 |
事業内容 | シール製品、工業用機能部品、油圧機器、プラント機器、原子力機器、合成化学製品、エレクトロニクス製品などの製造・仕入・輸入・販売、ならびに付帯業務 |
企業Webサイト | https://www.nokgrp.com/ |
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