セカイのチカラ

B-EN-G上海に新たな風、異色の副総経理 児玉 淳也

2020.03.26

#中国

B-EN-G上海に2018年3月、技術者およびコンサルタント出身者以外では初となる営業畑出身の副総経理が誕生した。営業部長も兼務する児玉淳也だ。製造現場のデジタル化を加速させる中国で、技術者ではない自分がすべきことは何か?――。営業視点ならではの新戦略について児玉が語る。

15年ぶりの上海で

2006年11月にB-EN-Gに入社した児玉。上海には、前職のメーカー系物流会社の出張で頻繁に訪れていた。2008年の上海万博、2010年の北京五輪で盛り上がるより少し前、2000年代前半の頃だ。地下鉄もあまり敷設されておらず、朝夕の通勤ラッシュには主要道路がひどく渋滞していた。

それから15年余り。

「正直なところ『中国はもうお腹いっぱい』という思いもありましたが、再訪してみると良い意味で裏切られました」

当時、車で2時間かけて出勤した倉庫街には地下鉄が通る。交通インフラや立ち並ぶ高層ビルなど目に見えてわかる変化から、日本をはるかに凌ぐキャッシュレス化の進行や多様なスマホアプリなどサービス面の変化も目覚ましい。

高層ビルが林立する上海の夜景。「以前は東方明珠電視塔(東方テレビタワー)くらいしかなかったのに」と児玉は驚くshanghai.jpg

「成熟した日本の15年間とはスピード感がまるで違うと感じました。こちらに来てから一度もATMで現金を引き出していません。スマホだけで生活が完結しています。物価も上がり日本のほうが安いモノやサービスも多く、訪日中国人が『爆買い』していた理由がよくわかりました」

中国では屋台などでもキャッシュレス決済が浸透しているqr.jpg

日本では、米中貿易摩擦で中国国内の景気は悪化しているという報道も目立つ。だが児玉は「それでも日本よりはるかに高い成長率を維持しています。こちらに来てみると13億という巨大な市場の持つ力を改めて感じます」と悲観していない。

営業出身の自分にできること

本社では、SAPやOracleなどのERP(基幹業務システム)パッケージのほか、貿易・物流ソリューションの営業を長く務めた児玉。上海を含むB-EN-Gの全海外拠点で、営業出身者が赴任するのは初めてのことだ。

「私のような営業畑の人間が副総経理として赴任できたのも、10年間にわたって安定経営を続けてきた孫総経理率いる上海法人だからこそ。日本人は私ひとりですが、顧や袁、徐を筆頭に中国人だけでシステム導入のプロジェクトが遂行できる体制が整っています」

児玉は開発の経験こそないが、持ち前の高いコミュニケーション能力で社内の開発者やコンサルタントはもちろん、顧客企業や、パートナー企業との関係構築や調整を得意とする。2019年秋には、パートナー企業3社の協力を得て上海法人としては初めて、大規模な展示会に出展した。

上海の展示会ブースの様子 exhibition.jpg

「これまでは日本本社から仕事が来て、それをこなすだけでもある程度の売り上げがありましたが、これからは中国独自の引き合いを増やしていきたいと考えています。展示会出展もその一環で、ほかにもデジタルマーケティングなども強化していきたいですね」

「日本人が出てこない」

こうした考えは、上海に赴任して感じた危機感から生まれた。

「顧客企業を何社か訪れるうち、あることに気づきました。日本人が出てこないんです。以前は日系企業に行けば日本人の担当者が対応してくれましたが、中国人だけで打ち合わせが完結する。そもそも日本人がいないんですよね。今では日系企業も部長・課長クラスはローカル化が進んでいます」

B-EN-Gの強みは、日本式のシステム導入を日本のビジネスに詳しくて日本語の話せる中国人コンサルタントが支援することだ。だが、「このままでは競争力を保てなくなる日が来る」。児玉は先行きを危ぶむ。

「逆に言えば、日系企業にこだわる必要もなくなってきているとも言えます。中国人だけで完結するなら、ローカル企業も欧米企業も攻めたら良いと思いました」

前職で1年ほどチェコに赴任した経験のある児玉は、欧米企業とのやり取りにも抵抗がない。今後は日系企業に限らず中国系や欧米企業にも販路を拡大することを検討している。

もうひとつの顔

児玉は中小企業診断士としての“もうひとつの顔”を持つ。日本では通常業務の傍ら、資格を活かして補助金申請のサポートなど中小製造業の支援活動を行なっていた。

「日本の中小製造業の多くは、労働力不足に直面し少人数化や自動化を進めてきました。中国も日本と同じように少子高齢化で遅かれ早かれ労働集約型産業に限界が来ると感じています」。児玉はこれまで見てきた日本の中小企業と中国の製造業の姿を重ねる。

日本では中小企業診断士としても活動しているkodama2.jpg

「かつては“世界の工場”と言われた中国でも、シニア層や外国人労働者で工場を回す日が来るかも知れません。その時私たちは、ソリューションで誰もが作業しやすい現場作りを支えます」

B-EN-Gは、信号灯から工場設備の稼働状況を可視化する「mcframe SIGNAL CHAIN」やさまざまなデータを情報に変えるBIダッシュボード「Biz board」、モーションセンサーによる作業指導・評価ツールの「mcframe MOTION」など、複数のIoTソリューションを投入している。

中国政府は2015年に製造業の高度化政策「中国製造2025」を発表。生産現場の自動化やデジタル化、スマート化の推進を促している。最近では米中貿易摩擦が輸入依存のリスクを顕在化させた。中国国内の製造業強化の機運はさらに高まり、IoT関連製品にとっては追い風となっている。

「日本では、補助助成金を製造業の設備投資に充てるお手伝いをしていましたが、中国でも政府の政策をうまく活かして自社のソリューションを提案していきたいです。また、B-EN-G上海も規模的には中小企業です。中小企業診断士の視点で人事制度や財務、現場のオペレーションなど組織の強化も進めます」

営業畑出身の中小企業診断士。異色の経歴を持つ副総経理がB-EN-G上海に新たな風を吹かせている。

(取材協力:NNA/監修・共同通信デジタル)
※本インタビューは2019年9月現在の内容です。

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